2021.08.30
高い知性と豊かな情操を身につけ
多様化する社会に通用する「新しい人間力」を育成
1891年、古賀喜三郎氏により創設され、以降100有余年にわたり、多くの優秀な人材を輩出してきた海城学園。グローバル化が進み、価値観が多様化する社会において、求められるのは、対話的なコミュニケーション能力とコラボレーション能力を兼ね備えた力、すなわち「新しい人間力」の育成を掲げている。今回は二人の高2生を取材。生徒の自主性、自律性を大切にしながら、新しい人間力を育む学校生活の一端を伺った。
今は落語や俳句の面白さに夢中
将来は日本文化を海外に紹介したい
最初に話を聞いたのは、田村龍太郎君。週4日、陸上部で汗を流しつつ、古典芸能部の部長を務め、さらに俳句甲子園にも参加する、まさに文武両道、多彩に活動している高2生だ。 海城の古典芸能部はコント、漫才、落語、大喜利などがあり、田村君が練習しているのは古典落語。「実は、小学生のとき担任の先生にすすめられてクラスで落語を披露したのがきっかけ。演目は『時そば』と『初天神』でしたが、古典落語って楽しいなあ!と思いました」。落語特有の話し方が面白いし、食べたり、担いだり、とんかちを打ったりする表現や動作が扇子と手ぬぐいひとつでできるところも目からウロコ。 活動日が陸上の練習日とかぶらない木曜日だったので迷わず入部した。今では、海原亭創龍の名前を持ち部長を務めている。落語家の話を見るところからはじめ、覚えて人前で話せるようになると、自分なりに新たに面白い部分を追加していく。「終わりよければすべてよし!と言いますが、オチは大事です」と笑う。 コロナ禍で実施できていないけれど、合宿あり、文化祭あり、近くの小学校での出前寄席あり。とにかく、大勢の人に見てもらうのが何より楽しいとのこと。 さらに、予選を勝ち抜き本戦に出場した俳句甲子園について聞くと、中学時代に俳句の授業があり、部活の句会に参加。相手の句を詠み、すごいなと感心。それを具体的に褒める時間も楽しいと感じ、中3の秋に入部した。「句会では、みんな個性をもって俳句を出してくるので、授業の時には見えない世界が見えます。俳句は、言いえて妙なところがあるし、アイデアが出るかどうかで決まる、そこが面白い」という。 田村君は中3の時、国際交流サマーキャンプに参加した。「同じ部屋だった人たちに文化祭にきてもらい、落語を見せたら、みんな楽しんでくれました。落語や俳句は、外国人との交流にも使えると確信しました」。海外に興味があるという田村君は、「将来、海外に出て日本文化を紹介したい」と、自分の得意分野の先に見える夢を語ってくれた。
インタビューを受ける田村龍太郎君
情報授業の様子(中学3年)
コロナ禍で見えてきた
自分が絵を描きたいということ
続いて、美術室に向かう。そこにはカンバスに向かい黙々と筆を走らせる部員たちの姿があった。「入部したのが去年なので、短いです。もっと早く入っておけばよかった」と、話してくれたのは美術部部長の森山総一郎君(高2)。部員数約25名、集まって何かするというより、ある程度のプログラムを組み、部員の個性や自主性を大切に進めているという。美術部としてのメインイベントは、文化祭と他校と一緒に展示する合同展。文化祭では、今年のテーマ「彩」に沿ったパンフレットやステージの背景を担当するという。 この美術部で活動しながら、森山君は自分の進路を美術系の大学に向けている。「もともと絵が好き。趣味で絵を描いていた父の姿を見ながら育ったことが影響しているかもしれません」と話す。コロナ禍で家にいる時間が増えたことで、「自分は絵を描くのが好きなんだ」と実感するようになった。美大合格をめざすうえで、筆記試験でしっかり点数をとるのは当然のことながら、問題は2次の実技。そこで美術担当の天野先生に相談、美術系の予備校(週に3日、3時間)に通い、自宅に戻れば1日1枚以上デッサンする毎日だという。「予備校にはすごい生徒が何人もいる。その絵を見ていると力の差を感じるけれど、そこに惑わされることなく、絵は描きたいときに描くのがモットー。そこにもっていくまでの、とっかかりが実は大変!」と、彼なりの悩みもありのままに話してくれた。
美術部部長の森山総一郎君
正解がない創作活動。自分なりの
ゴールをめざす過程が大事
森山君はじめ部員たちの活動を静かに見守る芸術科副主任の天野友景先生。美術は中学では必修科目だが、高校では選択科目になる。「進学校では、芸術科目は最初はそれほど意識されていない科目ですが、いざやってみることで、その価値が生徒に伝わることはあると思います」と話す。作品制作に長い時間をかけて、自分と向き合いながら作品を創る経験は、人生のなかでそう多くはない。「森山君のように専門家への扉を開こうとする生徒はここでは少ないけれど、美術の『窓』みたいなものをつくってあげたいと思っています」。 将来、美術館へ行く機会もあるだろう。そこで絵画をみたときに、実体験として描いたことがあるのとないでは、鑑賞の視点は違ってくる。この絵のどこがどう素晴らしいのか、自分が描いた経験、すなわち美術の『窓』を通して観ることができる世界がある、というのが天野先生の考えだ。 「作品制作には正解がないけれど、自分なりのゴールをめざしていく過程があります。苦戦しながら、もやもやとしたなかで、自分が目指す到達点に向かってたぐり寄せていく。その経験が生徒たちには大事だと思っています」と語る。感受性が豊かなこの時期だからこそ与えられる心の教育、豊かな人間性の育成が芸術科目にはある。
芸術科副主任の天野友景先生
やりたいことをやらしてくれる
海城の自由な校風を満喫中
最後に二人に学校生活のことを聞いてみた。森山君は「海城にきてなかったら芸術の道には進まなかったかもしれません。自由だし、アニメも好きでいろいろチャレンジできます。海城は硬い進学校と思われていると思うけど、まわりが思っているほどでなく、とても自由です」と明るく答えてくれた。 3つの部活をこなす田村君は、「この間、生徒会選挙の応援演説をやりました。やろうといったら、友だちものってくれる。男子だけの環境って意外に楽しいです。イベントの度にすごく盛り上がる。ドッチボール大会もクラス戦で全員でワーッと盛り上がります」。 今年の文化祭ではオンライン企画の台本を書く仕事を文化祭実行委員から頼まれて引き受けたという。「受験勉強は文化祭が終わって部活を引退してから。受験勉強は、やりたいことをやめてまでするもんじゃないと思っているから」と断言。「人のためになることは楽しいし、今の学校生活はめちゃくちゃ充実している」と目を輝かせて話してくれた。
記事一覧へ