2021.11.30
わが子の「全敗」可能性を限りなくゼロにする
スタジオキャンパス 矢野耕平
こんにちは。2月1日の東京・神奈川の私立中学入試の解禁日まで残す日数は僅かになりました。6年生の中学受験生をお持ちの保護者は、わが子の模擬試験のデータを目の前にどのような「受験パターン」を構築すべきか頭を悩ませていることでしょう。
さて、先月10月12日に森上教育研究所が発表したデータによれば、9月の4大模試(四谷大塚・日能研・SAPIX・首都圏模試)の受験者数が前年同月比約5.6%増、人数にして約2600人の増加となったとのことです。「前年比で5%増ならば大勢に影響がないのではないか?」と安心される方もいるでしょう。
そんな方に以下の表を見てほしいのです。
上段が「2月1日の午前入試における受験者の総数」です。この数値は首都圏の国私立中学受験生数に近いと言われています。そして、下段が「1都3県(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)の国私立中学入試における募集定員の総数」を表します。ざっくり申し上げると、首都圏の中学受験生を受け入れられるその「キャパシティ」を意味する数値です。 2015年度は「上段<下段」でした。つまり、受験者総数よりも国立中学校の定員総数のほうが多く、いわば受験生が「中学を選ぶ時代」でした。しかし、2020 年度と2021年度は「上段>下段」に転じたのです。もうお分かりかと思いますが、受験生たちが「中学から選ばれる時代」に入ったのです。 そして、来春2022年度です。国私立中学校の募集定員総数は前年とさほど変わらないでしょう。しかし、2月1日午前中の受験者数は前年比で約2600名増えるのです。「国私立中学校への進学先を失う」受験生は(あくまでも表データで言うと)約800名から約3400名に膨れ上がると見られているのです。 これを聞いてゾッとされる保護者が大勢いらっしゃるのではないでしょうか。 とりわけ中堅校(たとえば、四谷大塚80%合格ラインで偏差値45~55に相当する学校)の受験者数の変動には注意したいものです。受験者全体が増えるということは、ボリュームゾーンが膨らみ、そこで熾烈な争いが繰り広げられる可能性が高いからです。昨年度であれば「安全校」にできた学校に来春受験者が詰めかけた結果、思わぬ「難化」が見られる可能性もあるのです。 わが子の中学入試の受験校を選定される際に、この秋に受験した模擬試験の総合成績(4科偏差値)の平均値に基づいて「挑戦校」「実力相応校」「安全校」をバランスよく配置することが大切になります。しかし、「安全校」だと考えた学校の受験生が激増した結果、実は「安全校」ではなかった……というケースが出てきてもおかしくありません。 わたしが提案したいのは石橋を叩いた受験校選定です。「この学校がダメだったらどうしよう」「あの学校もダメだったらどうしよう」と「臆病」になることこそが親に求められる心性だと考えます。 具体的に申し上げるならば、2月1日午前・午後、2月2日午前・午後の計4回受験する入試のうち、複数の「安全校」を組み込むことです。そして、2月2日に良い結果が得られれば翌日はA中学校を、そうでなければ翌日はB中学校を……といった「W出願」の事前想定もおこなったほうがよいでしょう。 進学先がなかなか確定しない中学受験生は、2月4日、5日……と入試が続くことになります。最後の最後まで元気いっぱいに終盤戦を戦い抜くためには、たとえ安全校であっても「合格」というお守りをしっかり確保できているかどうかが鍵を握ります。強気の受験パターンや、甘く見積もった受験パターンを構築してしまうと、どこの合格切符も得ることができないまま終盤戦に突入することになりかねません。こうなると、わが子の心だけでなく、保護者の心も「ポキン」と折れてしまうことだってあるのですね。 子どもたちは中学受験勉強に長い時間をかけて取り組んできました。また、保護者の方の支えもご苦労が多かったことでしょう。だからこそ、「合格」という結果をわが子が自ら獲得できるよう、保護者は万全を期してほしいと願っています。 ご家庭にとって悔いのない中学受験にするために、「やってよかった」と心から思える中学受験にするために、今回の記事がご参考になれば幸いです。
矢野耕平 ヤノコウヘイ
中学受験専門塾「スタジオキャンパス」代表。東京・自由が丘と三田に校舎を構える。国語・社会担当。著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『男子御三家 麻布・開成・武蔵の真実』『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(ともに文春新書)、『旧名門校 VS 新名門校』(SB新書)など10冊。最新刊は『令和の中学受験 保護者のための参考書』(講談社+α新書)。現在、AERA dot. やプレジデントOnlineなどで連載記事を執筆している。
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