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2022.07.15

中学受験情報の「取捨選択」が大切

スタジオキャンパス 矢野 耕平

首都圏の中学入試の人気ぶりが依然として続いている。一説によれば、現小学校4年生が中学入試に挑むことになる2025年度は過去最高の中学受験者数となり、熾烈な争いが繰り広げられるとされている。2020年度以降は「首都圏の受験者総数>首都圏の私立中高一貫校定員総数」の状態であり、いまや中学校を「選ぶ時代」ではなく、中学校から「選ばれる時代」に突入している。その傾向がこのあとも加速度的に進んでいくと見られている。中学受験に関心のある層が増加している一方、コロナ禍の影響で各私立中高一貫校は学校説明会の席数をしぼったり、ご家庭1件1件に対する見学会を実施したりと工夫を凝らしている。しかしながら、そのようなスタイルに変化した結果、希望する学校説明会や見学会が即時に満席に達してしまい、多数の受験生・受験生保護者が志望校の「生の姿」を感じられる機会を得られていない。だからだろうか。近年はSNSなどで中学受験情報が頻繁に取り交わされるようになった。わたしはTwitter(@campus_yano)を利用しているが、中学受験生保護者たちのアカウントはびっくりするくらい多い。わが子の受験年度を冠したアカウント名(たとえば、「犬猫好太郎2024」など)にあふれていて、連日「同志」である中学受験生保護者たちや、「先輩」であるわが子の中学受験経験者の保護者たちとつながっている。Twitterには音声ライブ機能「スペース」というのがあり、それを利用して夜な夜な中学受験について語り合うルームも開かれている。人気のあるルームには数百人のリスナーが参加する盛況ぶりだ。これまでさまざまな書籍やメディア記事で中学受験のあれこれを発信しているわたしが物申すのもなんだが、中学受験の「情報過多」は保護者に安心感を与えるどころか、不安を増幅させてしまう危険性をはらんでいるのではないかということだ。考えてもみてほしい。話し手が「先輩」であるわが子の中学受験経験者であったとしても、「わが子」の経験談という極めて限られた範囲でしか話ができない。「N=1」「N=2」レベルのアドバイスが普遍性を持つとは考えにくい。また、これらのSNSに集う保護者をターゲットにする「同業者」も散見される。保護者アカウントにご丁寧にアドバイスをしたり、スペース機能を活用して指導方法について語ったりしているらしい。これらの「プロ」の情報は果たして信頼に足るものなのだろうか。わたしはかなり怪しいと睨んでいる。これらの「同業者」のアカウントの中には、匿名でかつ元在籍していた大手塾の名を冠しているものがある。言い換えれば、その大手塾の冠がなければ「箔」が付けられないのだ。その塾に勤めたものの、全く通用しなかった講師である可能性が高いだろう。また、数冊の書籍を著したことを掲げて、自分の指導が良いものとSNS上で売り込んでいる講師などもいる。「書籍を刊行する講師」=「素晴らしい講師」という単純な図式を描くのは危険だ。その書籍がどの出版社(たとえば持ち込みを奨励する出版社などは論外)から刊行されているのかをチェックすると、本当に実力ある講師なのかどうか甚だ疑問である。こういった講師たちはSNSで頻繁に見かけるものの、それ以外のメディアでその名を見かけることはほとんどない。「自称・凄い講師」に過ぎないのである。そもそも、多くの人から求められているプロ講師であれば、安易に自身のメソッドなどを無料で配信することはないはずだ。さて、中学受験生保護者には中学受験をシンプルな図式で捉えてほしい。
「わが子が勉強する」→「入試を受ける」→「合否発表がおこなわれる」
中学受験とはとどのつまりこの3段階だけなのだ。膨大な中学受験情報の中から有用なもの以外はばっさり切り捨てて、わが子の中学受験の3段階を支えていきたいもの。情報に惑わされると保護者は不安に駆られるし、その不安は子に伝播するものだ。中学受験はシンプルに考えよう。

矢野 耕平 ヤノ コウヘイ

中学受験専門塾「スタジオキャンパス」代表。東京・自由が丘と三田に校舎を構える。国語・社会担当。著者に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば辞典』(メンツ出版)、『男子御三家 麻布・開成・武蔵の真実』『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(ともに文春新書)、『旧名門校VS新名門校』(SB新書)など10冊。最新刊は『令和の中学受験保護者のための参考書』(講談社+α新書)。現在、朝日新聞EduAや講談社FRaUなどで連載記事を執筆している。2022年11月に新刊を刊行予定。

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