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2021.10.30

「学び」における「省察的実践reflective practice」の主語は?

組織改革ファシリテーター 石橋 哲

コロナ禍下、心からお見舞い申し上げます。ご尽力賜わる医療関係の皆様に心からの感謝を申し上げます。オリンピック・パラリンピックを終え、私たちはどんな世界を創るのでしょうか?デジタルトランスフォーメーション(DX)は様々なシーンで話題になっています。皆様のお仕事の中でも目にしない日はないのではと拝察します。しかし、すっかりバズワード化しているその言葉の意味するところは、発話する人によってずいぶん違うようです。最初に浮かぶのは、様々な仕事のIT化です。稟議書の「ハンコをなくす」などはまさにその一環ですね。「紙削減」が叫ばれる割には「PDF」になっただけ。実は業務は減るどころか増えている!
という職場も多いとの声も聞こえてきます。そんなことはPCが仕事場に登場して以来どこでも取り組んでいて、いまさら「DX、DX……」と呪文のように唱えられても、なにか裏にあるのか、と困惑と邪推が沸き上がってきそうです。
2021年4月に発刊された西山圭太氏の「DXの思考法」(文芸春秋)1は、既に手に取られた方も多いと思います。「DX」がその本質として伴う「思考法」は、様々な事象や物ごとの存立構造を事象単体(縦割り)で成立するものとして捉えるのではなく、まるでミルフィーユのようにたくさんの層(レイヤー)で構成されるものと捉えなおし、個々の層(レイヤー)があちこちに存在している様子を白地図のように把握し、「いいとこ取り」で活用する。また、その思考の対象は自らに対しても及ぶ。「DX」の本質意義をそのように喝破する氏の初の著書は経済界にも様々に反響を呼んでいます。私がおります東京理科大学技術経営(MOT)専攻でも同氏をお招きしてシンポジウム2を行い、参加者と活発な議論が交わされました。小学校の先生も参加され、「学び」のシーンでも「DX」が地殻変動級インパクトを持つと学ぶことができました。昨春の全国一斉休校の中、ご家庭の皆様や先生方など学びの現場におられる方々が、子どもたちの「学びを止めない」ことを目指し連携と試行錯誤を重ねられたことは、まさにその実践です。「教育指導要領」3や「未来の教室」等の目指す先と軌を一にしていると言えるのかもしれません。そこでの主語は専門職である教師です。「自分のそれまでの知識や技術、能力、価値観を超える問題に直面し、不安や戸惑いを感じる状況を突破するために、それまでの経験を総動員して何らかの行動を起こし、直面する状況に変化をもたらし、なんとかしのいだ後に、今回直面した状況の変化を評価し、教訓を導き出し、その繰り返しによって状況と対話し、自ら学び、解決策を身に付け、発達してゆく」。4ドナルド・A・ショーンは、医療や看護の世界で日々行われる「行為の中の省察Reflection in Action」を教師にも見出しました。しかし、学校を構成するのは教員と子どもですし、「学び」の主語は子どもたちです。「学校」は、子どもたちも教師とともに日々「行為の中の省察(reflection in action)」すなわち「学び合い」を重ねる「場」と捉え直すことが大切ではないかと思います。社会の創り直しは学びの創り直しから。その主語は世代を超えて、連携に参加する者になりそうですね。

石橋 哲 イシバシ サトシ

東大法卒。邦銀・米銀を経て、03年産業再生機構参画(マネージングディレクター)。
07年以降組織変革支援。07年日本郵政顧問、08年内閣府政策企画調査官、11年国会事故調(原発事故調査委)調査統括補佐、等歴任。19年4月から東京理科大大学院技術経営(MOT)専攻教授(https://most.tus.ac.jp/teacher/ishibashi_satoshi/)。

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