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2021.12.30

「わかりやすさ」の「わかりにくさ」

東京理科大学大学院教授 石橋 哲

2021年も11月に入りました(この原稿は11月初旬に書いています)。 秋は学会シーズンです。私が参加する研究・イノベーション学会でも年次学術大会1があり、社会人大学院である東京理科大学技術経営専攻からもたくさんの学生・教員が研究発表を行いました。大会に先立って開催された企画シンポジウム「DX思考法による教育イノベーションへの道」では共同提案者として、当日のファシリテーションを務め現行の教育指導要領策定に関わられた合田哲雄氏(現内閣府/文部科学省)、「未来の教室」「未来の部活」を推進する浅野大介氏(経済産業省)、「DXの思考法」2(2021年。文芸春秋)の著者西山圭太氏(東大客員教授、元経済産業省商務情報政策局長)、原山優子氏(研究イノオベーション学会会長)を迎え、約200人の参加者と間で熱い議論を展開しました。私自身がたくさんの学びを得ることができました。大会のたくさんの分科会のうち、私が参加したのは教育DXに関する議論の分科会。初日のトップバッターでした。DXは「学び」を変え、「学校」は教員と生徒が社会とともに学び合う「場」の変容を伴うこと、その変革に参画する生徒は教員と共にドナルドショーンの言う「実践的省察3」を行うことが可能であることを私が世代を超えた「学び」をご一緒する「わかりやすいプロジェクト(国会事故調編)4」での二つの事例から報告しました。沢山の学びと共に、多くの反省点を得ました。 ひとつの山場を越えホッとしたところで、新しいことを始めました。私たちが様々な現象を認識するプロセスの構造についての議論を学ぶべく放送大学で新しい講座を勉強することにしました。また、1ON1を初めて出会う人と行うことにチャレンジしています。 さて、SNSのメインストリームも時代とともに変化るようで、趨勢を誇ったFACEBOOKは中年層の主張の場となったと聞きます。私もたまにFBで発信しますが、そこでは明らかな傾向があります。少し考えたことを文章で書く場合の反応は薄く、わかりやすい写真や動画をアップした場合は多くの「いいね」をいただきます。その裏側で、たくさんの想いや言葉を捨てています。ぱっと見のわかりやすさは、発信する側の捨象した様々なメッセージを見えなくしているかもしれません。 見た目はどのような背景で構築されているのかを見極めることは「目利き」と言われて大切です。先日、大学院講義でお迎えしたゲストは、産業の「目利き」として高名な方。喜寿を迎えてなお、迸る情熱と溢れる好奇心。学び続けるご姿勢を支えるのは、自らを厳しく律する心。学び続けることへの貪欲な姿勢が圧倒的でした。そこには、私たちを家畜化する「教育」とは真逆の、自律の厳しさに裏打ちされた「自由」に通じる唯一の道「学び」、喜びにあふれる道が見える気がしました。 「学校」を「教育」の場から「学び合い」の場に転換すること。生徒が主語として「学び」の場に参画すること。私たちは「わかりやすさ」が覆い隠す「わかりにくさ」に取り組める素晴らしい扉を開けようとしています。それはDXによって加速されます。新しい社会の扉を開く時はまさに「いま」ですね。

石橋 哲 イシバシ サトシ

東大法卒。邦銀・米銀を経て、03年産業再生機構参画(マネージングディレクター)。07年以降組織変革支援。07年日本郵政顧問、08年内閣府政策企画調査官、11年国会事故調(原発事故調査委)調査統括補佐等歴任。衆議院原子力問題調査特別委員会アドバイザリーボードメンバー。東京理科大学大学院教授(技術経営専攻)。

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