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2021.12.30

教員免許更新制より研修の実質的な充実を

教育ジャーナリスト 野原 明

制度がスタートして以来、教員の間で評判の悪かった教員免許更新制が、早ければ2023年度から廃止される方向で検討が進められている。 免許更新制は2007年、第1次安倍政権当時の教育再生会議が導入を提言し、法改正などを経て09年から実施されたもので、それまで免許取得後は無期限有効だったものに10年間の期限を付し、更新時には30時間の講習を義務づけている。 医師免許にしても、法律家の資格にしても、国家試験に合格して一旦付与されたら終身有効で、なぜ教員免許だけが10年間の期限が付けられるのかに制定当初から疑問符が付けられていた。 さらに、講習では教科指導や生徒指導などの課題について30時間以上受講し、受講後にテストなどを受けて合格すれば更新されることになっている。教員は10年目を前に夏休みの期間や週末などを使い、自腹でおよそ3万円の受講料を払って受講しなければならず、更新の手続きを怠ると免許が失効することになっている。 講習の内容は文部科学省の省令で「国の教育政策や世界の教育の動向」「学校をめぐる近年の状況の変化」などと大枠が示されているが、実施する大学や機関によっては内容が粗雑で、時間と費用をかけて受講する価値があるかについても批判が絶えなかった。 国の教育政策や世界の教育の動向等はまだしも、学校の現況や生徒指導など身近な問題については、講師より受講者のほうが詳しいといった指摘もあって講習のあり方が問題視され、廃止を求める声が起こっていた。文部科学省が21年4、5月に現職教員約2100人を対象に行ったアンケート調査では、講習内容について「教育現場で役立っている」が34%だったのに対し、「役に立っていない」が38%あり、半数以上が「現実と乖離があり、実質的ではない」と答えていた。 19年に文部科学大臣に就任した萩生田氏は、教員志望者が減少しているなどの事情もあり、21年3月中央教育審議会に「制度の抜本的見直し」を諮問した。中教審の小委員会は与党の文教族議員の反発を意識してか「制度の廃止」という表現は使わず「発展的解消」を答申する方向で結論をまとめた。教員免許更新制の改定は、2007年第1次安倍政権当時、総理直属の「教育再生会議」の第1次報告で指導力不足などの「不適格教員」の排除を目指していたが、中教審などの議論を経て目的が「教員の能力向上」に差し替えられた。 これらの状況を受けて、萩生田文科大臣は21年8月「制度を廃止するのではなく、より充実を目指す」と発言して事実上の廃止を表明、早ければ法改正の上23年度で廃止される見通しとなった。 制度の廃止は学校管理職をはじめ関係者から歓迎されており、抵抗は少ないものとみられているが、教員免許の期限を無期限に戻すことには問題がないとしても講習を無条件に廃止するには問題が残る。 学校の現状をみてみると、20年度から小学校、21年度から中学校で、また22年度から24年度にかけて高校で、改訂学習指導要領が施行されることになっており、これまでの「教える教育から自ら考える教育へ」と改められることになった。 改訂指導要領の下では、「主体的、対話的で深い学び」を実現することになっているが、「主体的、対話的」とはどういうことか、「深い学び」とはどんな学びなのか現場の教員すべてが理解しているとは言い難い。 改訂学習指導要領では学習評価についても考え方が大きく変わった上、高校にも観点別評価が導入されることになった。小中学校では、「観点別評価」の観点が変わって「主体的に学習に取り組む態度」が新しく加わることになっているが、これが従来解釈が混乱してきた「関心・意欲・態度」とどう違うのか教員に十分理解されているとは思えない。 教育公務員特例法の第21条2項は、「任命権者は研修に関する計画を樹立し、その実施に努めなければならない」と規定している。上記のような授業に直結する疑問を克服するためには、充実した講習が行われなければならず、国と地方の教育行政にはそのような講習を開設する責任がある。同時に多忙な教員が講習を受けられる時間を用意する責任も、併せて果たさなければなるまい。

野原 明 ノハラ アキラ

1958年京都大学卒。記者として放送界に入り、83年NHK解説委員(教育・文化等を担当)、93年定年退職。2001年まで部外解説委員。93年文化女子大学教授、2000年同大学付属杉並中高校長兼務。11年退職して文化学園大学名誉教授、同大杉並中高校名誉校長に。
現在はフリーの教育ジャーナリスト。マスコミと学校現場を経験した教育評論が特色。

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