2021.10.30
“道徳を英語で学ぶ授業”を新たにスタート
グローバル社会に対応できるマインドを育成
「女子教育奨励会」を母体とし当時の内閣総理大臣・伊藤博文はじめ渋沢栄一、岩崎弥之助など歴史上の偉人たちの尽力により設立された東京女学館。建学の精神である「国際性を備えた知性豊かで気品のある女性の育成」は、開校より130余年を経た今も脈々と受け継がれている。今回は、グローバル社会を見据えた新たな国際教育プログラム「グローバルコンピテンスプログラム」の導入について、その意義を渡部校長先生に伺った。
失敗をおそれずに英語で話そう
“英語で学ぶ道徳”が最初の1歩に
1888年に創立以来、近代化の礎となる女子の育成に力を注いできた東京女学館。日本文化への理解を深めつつ、一方で国際的な視野を育てるために、英語教育・海外研修・異文化相互理解に常に積極的に取り組んできた系譜がある。この長い歴史に培われてきた英語教育に、さらに新しいプログラムが加わった。2021年度から中2生に導入された、道徳を英語で学ぶ「グローバルコンピテンスプログラム」だ。「ネイティブ教員により、オールイングリッシュで道徳の授業を1年間学びます。英語で考えて、英語で話す。間違えてもいいから、積極的に英語で話していこうという内容で、これからやってくるグローバル社会に対応できるマインドをつくることが目的です」と語る渡部さなえ校長。グローバルコンピテンスプログラムが、なぜ道徳であるのかについて「道徳では自分のことを考え、みつめ直すことを学びます。さらに多様な友人たちとつきあうことの大切さ、学校の枠を超えて地域や社会とつながることの大切さも。この考え方がプログラムの目指すものと合致していると考えたからです」と説明する。道徳を英語で学ぶ取り組みは、他校ではあまり見られないうえに、通年で道徳、後半では中2理科で学ぶ環境問題もキーワードに取り入れ、道徳と理科の環境教育との教科横断型授業を英語で実施する予定という。「日本人は、英語を文法的に正しく話さないといけないと思いこんでいるところがあります。間違えて話す=失敗と考えると消極的になりがち。これからの社会はもっと自信を持って、柔軟に対応できるコミュニケーション能力や、主体的で創造的な考え方や行動力が求められます。このプログラムを通して、グローバル社会で生きていくために必要なスキル、知識、生きる姿勢、価値観が養えるのではと期待しています」とも。
ネイティブ教員のもとで
のびのびと英語を学ぶ授業風景
今回の取材で、短時間ながら道徳の授業を見学することができた。ネイティブ教員と生徒たちをサポートする担任教師の二人体制。生徒たちは一人1台のタブレットを持っている。その日の授業はネイティブ教員が「好きな動物は何?」と質問する。動物占いに似ており、生徒たちの掴みは十分。「Lion」,「Dog」,「Panda」,「Sloth」…など、好きな動物を答え、二人一組で答え合わせをする時間もある。実にのびのびと楽しそうだ。さらに、「その動物の性格は?」「好きな理由は?」と質問は発展。その答えは「理想の自分」「他人からどう見られたいか」「自分自身をどう見ているか」といった自己分析におよび、「自分を知り、相手を知る」ことにも通じる道徳に寄り添う授業だ。「本校ではリスニング力が高い生徒が多いように思いますが、この授業がスタートして『英語で話す』ことが以前より積極的になってきた、という効果が出始めています」と渡部校長。生徒たちは自身のタブレットの専用アプリに配信される課題を事前に予習して授業にのぞみ、復習もできる。アプリは同校用に道徳や理科の環境問題に合った内容にカスタマイズされているとのことだ。
中1英語授業習熟度別の指導で一人ひとりの力を伸ばす
英語のレベル別授業も導入
アクティブラーニングの取り組みも
4月にスタートした「グローバルコンピテンスプログラム」の評価が表れるのは1年後。「生徒たちが、いきいき英語を学んでいるかどうか、この授業が有意義かどうか、英語の担当者とともに判断して、継続の有無を決めたい。いい結果が出れば、中3までつなげていきたいです」と語る。一方、英語科の授業では2020年度より年次進行でレベル別授業を初級・中級に分けて実施している。これは従来の教師が一方方向で文法などを教えるやり方でなく、意見をペアで交換したり、読んだものの感想を言い合ったり、プレゼンをするといったアクティブラーニング型の授業。他者の意見に刺激を受け、よりよいものが生まれる環境を作る工夫をしている。また初級・中級に分け、少人数完全習熟度別に指導をすることで、使用する教科書を柔軟に選び、生徒一人一人の英語力に合わせた指導も可能になった。
オーストラリアターム留学は高1向けの3ヶ月のプログラム
コロナ禍でも積極的にオンライン交流を実施(ポーランドの姉妹校との交流の様子)
コロナ禍でも世界に目を向け
留学やグローバル教育を推進
また例年、中2が全員参加で実施する2泊3日のイングリッシュキャンプ。今年はコロナ感染に配慮して、宿泊せずに学校に3日間登校して実施した。「SGDsの17のテーマから1つを選び、話し合い、最後にみんなの前でプレゼンします。今年のトピックは12名の留学生が参加したことです。その国を背負っている30代の留学生もいました。イタリア、インドネシア、ベトナム、カナダ、メキシコ、ガーナ、マレーシアなど12か国の優秀な人たちの話を聞き、触発されたようです」と渡部校長。まさに英語漬けの3日間だったが、生徒たちから「楽しかった」、「最初は聞き取れなかったけど、講師がサポートしてくれてわかるようになった」、「アメリカ英語だけでなく、いろいろな国の英語に触れることができた」という声も。いろいろな場所でいろいろな人に会って、英語で自分の意見が言える、それを経験できるキャンプとなった。また、生徒たちの海外留学への思いは強く、コロナ状況下においても2021年度のアメリカやカナダへの派遣留学生数は例年と変わらないという。
中2イングリッシュキャンプは全員参加(今年は校内で実施)
理数系にも英語力は必要
毎年15 名が医学部進学の実績
東京女学館が英語力を重視する背景に、グローバル社会で生き抜くための「生きる力」の育成であることは先に述べたが、文系のみならず理数系にとっても英語力は強みとなる。というのも東京女学館では毎年10名~15名が安定的に医歯薬学部に進学している。「医歯薬学部に進学する生徒は、入学の時点から本人が医歯薬学部を志しており、中3頃から粛々と勉強しているようです。受験では理数系も英語は大事ですから、本校としてできることはと考え、文系理系に関わらず英語に力を入れています」と話す渡部校長。
「品性」を育み、磨き、社会へ
東京女学館独自の情操教育
先だって、歯学部に合格した卒業生に話をする機会があった渡部校長。「どうして本校に入学したのかを聞くと、医学部への進学実績ではありませんでした。東京女学館は他の学校では得られない情操教育、音楽や日本文化を学べる。親や家庭だけでは教えられない、与えられない情操教育に価値があると、父親に薦められたというのです」。東京女学館では国際的な視野を見据えつつ、日本文化の理解を深めてきた歴史がある。茶道、華道、歌舞伎や能楽などの古典芸能の理解、さらにボランティア活動や平和教育、環境教育などを実施。その根幹には、多彩な価値観を持つ人と協働し、国際社会に貢献する「心」を育てる教育がある。深い教養と豊かな知性に裏付けされた「品性」を大切に育み続ける、東京女学館のゆるぎない教育理念を感じずにはいられない取材だった。
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