2021.12.30
「65分授業」や「土曜日の探究活動」など
新時代に向けて学習体制をリノベーション
キリスト教の建学の精神に基づき、「神のみ前に清く正しく愛ふかく」を教育理念に掲げ、自立した女性の育成をめざす清泉女学院。今年で創立77周年を迎え、今までの伝統的なアカデミックな授業にグループワークやICT機器を取り入れ、内容・時間ともに大きく進化することになった。40年ぶりの大改革として、2021年4月から第1歩を踏み出した「清泉女学院リノベーション」の内容を取材した。
65分の授業時間の拡大で
思考力・理解力の向上をめざす
新年度からスタートした「清泉女学院リノベーション」で大きく変わった学習体制のひとつが、「65分授業」と「土曜日の探究活動」だ。従来、週3日45分授業を7コマ、週2日45分授業を6コマ、土曜日は部活動のみのカリキュラムを続けてきたが、学習指導要綱も変わり、やりたいことをやりきるために45分では時間不足に。「20分授業時間が増えることで、じっくり考える時間や実験をする時間が増え、生徒同士が意見を共有する時間も持てるようになります。知識をきちんと理解し、応用することにも結びつくと期待しています」と話してくれたのは今回のリノベーションに携わった進路指導・研究部長の芝崎美保先生。65分授業による基礎学習の徹底と定着はもちろんのこと、ICTを活用した調べ学習やプレゼンテーションなども多く取り入れたアクティブラーニング型の授業をより多く展開していくという。
「My Story Project」や講演など
土曜日を探求学習に活用
また今回のリノベーションにより、部活動やバザー、合唱祭などの学校行事を行っていた土曜日が、隔週で登校日になり、総合的な学習および探求の時間に充てられることになった。「企業や社会人、卒業生に講演していただく場を増やすうえで、みなさんが来校しやすい土曜日が活用できるのではと考えました」(芝崎先生)。
中学3年間を通じて、社会で起こっていることに興味・関心を持ち、主体的に関わり貢献する同校オリジナルの「My Story Project」も、土曜日を中心に展開していくことに。「My Story Project」とは、①課題の発見、②情報の収集、③整理・分析というプロセスを経て④発表するライフナビゲーションプログラム。「課題の種は、できれば授業や宿泊体験などの機会を通して見つけてもらいたい。グローバルに興味を持ってもいいし、ICTであってもいい。発表の場に向けて、発信力を高めるノウハウは教員がサポートしています。スライド制作する際に必要となる著作権のことや情報分析、データ分析の方法も教えています。自分が興味を持った事を相手に伝わるように、発表してみる。その形が論文でも、パフォーマンスでも、ジオラマでも、絵でもいい。相手に自分を表現してみることを大切にしたプログラムで、土曜日を使えばじっくり協働学習ができます」と芝崎先生。また高校生には、将来に向けて自分のミッションをみつけていく時間に土曜日が充てられる。「高1生には「企業インターンIntensive」を実施しています。実在する企業でインターンを体験して企業の課題解決に取り組むプログラムです。また卒業生に受験体験談や仕事体験談を話してもらう講演会も実施しています。自分のキャリアや大学進学だけでなく、自分がどのように生きていくか、人生の羅針盤の基礎をつくる時期に、身近な人の話を聞くのは大切。土曜日に開催することで、講演の後、みんなでそれについて話し合う時間も設けられるようになりました。自分の興味関心から出発して、多くの声を聴きながら生まれてくる化学変化を期待しています」と芝崎先生は語る。
社会に出ている卒業生による講演会の様子
登校日でない土曜日には
卒業生による補習プロジェクト
さらに今回のリノベーションでは、登校日でない隔週の土曜日も活用。卒業生がチューターとして在校生に勉強を教える「補習プロジェクト」をスタートさせた。対象は中学生の希望者で国語、数学、英語、帰国生の国語の補習を実施。今回はチューターである2人の卒業生に話を聞くことができた。上智大学外国語学部で学ぶ中條理々香さん(大学1年)は、帰国生の国語を担当。「中学生全員で7名にチューター2名の体制です。みんな帰国生なので、国語の基本的なところを学習していますが、温めると暖かいはどうして漢字が違うのかと質問され、教えるのは難しいと思う時もあります」と話す。慶応義塾大学理工学部に通う野中理沙さん(大学1年)は数学だ。「持参の問題集を解いてもらい、質問があると教えます。中3の物理になると理系の人でないと難しい」とのこと。まだ始まったばかりなので、手探りで頑張っている様子が伝わってきた。そこでまだ記憶に新しい母校での学校生活について聞いてみた。
大学1年生がチューターとなり中学生に教える「補習プロジェクト」は登校日でない土曜日に実施されている
「清泉はやりたいことを自由にさせてくれる学校でした」と中條理々香さん(大学1年生)(写真左)
「清泉の授業で理科が好きになりました。なかでも物理の実験が好き」と野中理沙さん(大学1年生)(写真右)
大学進学や将来の進路に生かされる清泉での学び
「高2の時、全日本合唱コンクールで金賞と文部科学大臣賞を受賞しました。鎌倉市の式典のイベントにも出場して、定期試験と重なり、とても忙しかったのですが、自由に活動させてもらいました。大学に入ると、自分でスケジュールを組んでカスタマイズする生活ですが、それは清泉の時からやってきたことなので、戸惑いはありません」と屈託なく話してくれたのは、音楽部で部長も務めた中條さん。大学進学について、「上智大学はカトリック校の推薦枠で受験しました。清泉には上智大卒の先生が多く、いろいろ話を聞けました。志望理由書の書き方や面接試験などわかりやすく教えていただき、先生方にとてもお世話になりました」。大学では英語学科に進学。「将来は英語を生かせる仕事につきたいです。子ども好きなので、ユニセフや国際協力にも関心はあります」と、やりたいことが見え始めている様子。一方、野中さんは「野外学習や理科の実験が充実していました。それが理系好きになったきっかけだと思います。中1の野外実習は裏山、中2は箱根、中3は三浦半島、高1は真鶴の海でした。実習のたびに雨が降って、採集した昆虫や海藻や藻を、雨の中でスケッチしたのを覚えています。教科書で学ぶのでなく、実体験で学ぶのが学習意欲につながったと思う」と振り返る。高校になってから、進路に関わる講演を多く開いてくれたのもよかったと言う。「自分が何をしたいかまだわからなかったときに、講演で聞く話が参考になりました」。今、大学はコロナ禍でオンライン授業や実験だが、提出課題は多いのだとか。「中学時代から毎週ごとに次の1週間の学習計画を立てていたので、そこで身についた習慣が課題をこなすのに役立っています」と笑う。将来は研究や開発など新しいものを生み出す職業に就きたいと話してくれた。「多くの卒業生に講演してもらっていますが、高校時代からの単純な思いが、今の仕事につながっていることも多いです。高校では個々で目的意識を持ち、将来にむけて自分のミッションを見つけてもらいたい」と語る芝崎先生の思いと、二人の話がシンクロした。新年度から始まったリノベーションの柱、カリキュラムはじっくり65分授業で理解や実験をする時間が増える→土曜日にいろいろな話を聞く→自分のやりたいことが見えてくる、このサイクルが今までの伝統的な授業に加わり、新たなライフナビゲーションとなるに違いない。
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