2021.12.30
コロナ禍であっても探究的な学びを継続
愛ある人として自分で考え、行動する人を育成
フランスのシャトル聖パウロ修道女会を母体とし、「愛の心をもって社会に奉仕できる女性の育成」を教育目標に掲げる湘南白百合学園。今年で創立85周年を迎えるにあたり、4月に就任した林新校長は、15年後の100周年を視野に入れた新たな「学園グランドデザイン」を打ち出した。今回は、林新校長に未来に向けた様々な取り組みを伺い、二人の高2生に奉仕活動のやりがいを取材した。
オンライン化はコロナ前から始動
長期休暇に「探究講座」を実施
2021年4月に新校長を就任した林和(はやしかずこ)先生。話を聞いたのは、2020年9月に完成したメディアネットラボと呼ばれる斬新な図書館だ。まずは、この図書館を紹介したい。本の蔵書は約3万冊、電子図書が1000冊ほど揃っているほか、プレゼンテーションに使えるジャムボードが4か所に設置されている。「オンライン化はコロナ禍前から進めていましたので、教員にもICTを用いることについての意識がすでにありました。いざコロナ感染防止で登校自粛になりましたが、おかげで早い段階からオンライン授業がスタートできました」と話す。こちらのメディアネットラボも早い取り組みのひとつで、電子図書は2019年から導入済みだ。コロナ禍で登校できなくても、自宅に居ながらPCやスマホから借りることができ、実に便利。「電子図書はコロナ禍にあって需要が増え、生徒のリクエストを取り入れながら蔵書数を増やしています」。またメディアネットラボは授業ができるスペースもある。「ジャムボードを使って、授業やグループ活動、プレゼンテーションなど活動の幅が広がっています」とも。一方、コロナ禍のため多くの部活動ができず、家で過ごす時間が長い時期があった。そこでオンラインで何かできないだろうかというところから生まれたのが探究講座だ。「2020年の夏休みから実施して、今まで30講座でのべ1000人の生徒が参加しています」と林校長。東京工業大学の教授によるブラックホールの講座はじめ、企業や社会人、卒業生などの専門家による講座でジャンルはさまざま。教科横断型のSTEAM教育や語学講座、企業体験なども実施したという。「授業で行う探究的な学びに加えて、長期休暇を利用したいろいろな講座です。きっかけはコロナでしたが、コロナが終わっても継続できることのひとつです」と語る。さらにオンラインでの学びの新しい取り組みに、英国イートン校が実施するオンライン留学への参加がある。2021年の夏休みより、湘南白百合学園に向けてオリジナルの夏休みプログラムを提供されることが決定。イートン校といえば、英国ロイヤルファミリーが通う由緒ある寄宿学校。その授業を日本に居ながら体験できるのは同学園が日本初となる新しい試みだ。こういった「探究的な学びとそれを支えるICT教育」や「語学教育・言語能力の向上」は、林校長が考える「学園グランドデザイン」の重点項目のひとつである。
新校長に就任 林和(はやしかずこ)先生
白百合ホールでの学園記念ミサの様子
自分も相手も気持ちがいい
やりがいを感じる奉仕活動
「学園グランドデザイン」の根底にあるのは、「カトリック教育に基づく人間教育」にほかならない。その実践の場として奉仕活動もあげられる。同校では全員参加で関わる活動のほかに部活単位、委員会、有志で関わる活動もある。さっそく二人の高2生に話を聞いてみよう。永田聡佳さんは、約50名からなる小百合会委員会と有志によるPVO(フィリピン支援ボランティア)で活動している。「小百合会には中1の後半からずっと入っています。活動は多くて、例年なら老人ホームに訪問して、タオルをたたむお手伝いや、お年寄りと一緒に体操したり、お話ししたりします。今はコロナ禍で訪問できないので、募金活動やお手紙を書いて送ったりしています」と話す。昨年にはクリスマスカードを書いて施設に送ったら、カードを毎日見てくれているお年寄りがいると聞き、とてもうれしかったとのこと。「施設ではオンラインで家族とつながることはできるけど、目が疲れるらしく、手書きのカードが喜ばれたみたいです。手を差し伸べることは勇気がいるけど、それが出来たことによって、自分も相手も気持ちがいいので、やりがいが感じられます」と笑顔で答えてくれた。
「できる人ができる時に」が基本
自分のやりたいことができる校風
石上紗菜さんはカトリック研究部とPVO(フィリピン支援ボランティア)で活動している。PVOはフィリピンのスラムに住む子どもたちに物資やおもちゃ、文具などを送るのが目的で約50名の有志が活動している。「PVOは立ち上げようとした先輩がいて、少人数で始めた活動ですが、それを広げようとする人たちが多く、気づいたときには部活のような人数になっていました。今では白百合女子大の先生も支援に参加していただいています。みんなでやるとできることも増えます」と説明。PVOは、「できる人ができる時にやればいい!」がモットーなので、忙しくてもちょこっとやれる人でも入れる。自分がどこに重きを置くか、自分で比率を決められるのがいいのだと石上さん。「フィリピンの子どもたちが、送ったぬいぐるみを大事に抱いている写真が送られてきました。私たちが送った物資を受け取ってくれたリアクションが見え、がんばったのが伝わったんだなあと思いました」と永田さん。奉仕活動は部活とは違う、いろいろな人と出会えるのも魅力なのだと言う。また学校外では、湘南の海のゴミを集める「ビーチクリーン」活動も、同学園の生徒が主体となって活動している。「もともとこの学園に入るまで、ボランティアをやっていなかったのですが、一緒にやろうよと巻き込んでくれる人がいて、やってみると楽しいことに気づき、やる気が出ます。自分がやりたいことができる学校だと思います」と石上さん。「ボランティアとは、助けてあげるという押しつけがましいことではない」と二人は口を揃える。人として困っている人がいたら、同じ目標をもって一緒にがんばろうとすることなのだと、締めくくってくれた。
永田聡佳さん(高2)管弦楽部でクラリネットを担当。文化祭はじめ学校の行事が楽しくて、みんなが全力で盛り上がる校風が大好き(写真左)
石上紗菜さん(高2)文化祭を見学した際、生徒が本気で楽しんでいる様子に惹かれ、「入ったら楽しそう!」と思ったのが入学のきっかけ(写真右)
恵まれた環境のなか自由に
のびのびと成長する6年間
遠くに富士山、近くに江ノ島と湘南海岸を見渡す緑豊かな高台に位置する同学園。恵まれた学習環境のなかで、「大自然と小さな自分といった対比させる目を生徒たちは意識していると思います。自分の考えを持ち、個として自立したうえで他者に対して寛容であること。お互いを受け入れ、問題を解決する力を身に着けていく、それを私たち教員は支えていきます」と林校長。女子校ながら理数系の生徒も多く、進路は多岐にわたる同校。「部活では物理科学部が人気です。白衣を着て、みんな活発に実験をしています」(林校長)。将来、研究者になりたい、会社を起業して社長になりたい、パイロットになりたい、医療の仕事に携わりたいなど、夢はさまざま。話を聞いた石上さんも理系で、薬の開発に興味を持っており、「どんな国の人でも安全に手に入れられる薬がつくれたら。人を支えられるような仕事に憧れます」と夢を語る。「医療系に進む生徒も多いです。これは社会貢献の考えに根差していると思います。その仕事が自分の幸せにつながるという価値観が、本校の教育の源流にあるから。将来の夢を語る生徒が多く、進路も多彩であることは、のびのびと自由に育ってきた証かなと思います」(林校長)。これからの社会で求められるのは、自分の頭で考えて、自分の意見を持つということ。これからどんなキャリアを選ぶ際にも必要なことであり、この6年間で身に着けてもらいたいと語ってくれた。
相模湾見おろす高台に位置するキャンパスからは四季折々の自然にふれることができ、生徒の豊かな感性を育んでいる。
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