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2021.12.30

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目の前の事象の奥にあるものを見る
本質を見極める目を育む6年間

聖園女学院中学校・高等学校は、大正9年に創立された「聖心の布教姉妹会」を母体とする、カトリック系の女子校だ。同校が教育の中で大切にしているものの1つに“見えないものを見る力”がある。そして、この力を実践する機会として位置付けられているのが、高校2年生の現地研修だという。研修を通して生徒たちは何を得たのか。高校2年生の遠藤好香さん、大神佑希さんにお話を聞いた。

5年かけて育んだ力を
発揮する現地研修

7月27日から3泊4日の日程で、高校2年生の現地研修が行われた。目的地は、長崎・平戸。生徒たちは高校1年生から準備を重ねてきたそうだ。「1つ上の先輩方は、新型コロナウイルスの影響で研修がオンラインでした。私たちもどうなるかと不安でしたが、現地に行くことができてうれしかったです」と研修に参加した大神さん。遠藤さんも「みんなで相談して計画してきたことを、その通りに実行できてよかったです」とうれしそうに話してくれた。今回の現地研修のテーマは「祈りと平和」。隠れキリシタンの聖地であり、原爆が投下された場所でもある長崎で、生徒たちは何を学ぶのか。同校の宗教科で主任を務める石澤文先生は、「宗教の教科では、中学1年生から“見えないものを見る力”を育むことを意識しています。長崎の現地研修は、これまで学んできたことの大きな実践の場です。普段通えるような場所ではないからこそ、一生懸命に想像力を働かせなければそこから何かを読み取ることはできません。研修によってさらに“見る力”に磨きがかかることを期待しています」と話す。

長崎2日目の夜、国宝大浦天主堂で夜ミサにあずかる機会をいただいた

この場所でキリスト教の歴史において奇跡と称される「信徒発見」の事実があったことを思い起こし、皆で祈りを捧げた

この場所で生きた人たちに思いを馳せる

現地研修で訪れるのは、大浦天主堂や日本二十六聖人殉教地(豊臣秀吉のキリシタン禁止令によって宣教師と日本人信徒が処刑された丘)、浦上天主堂など、先生方が生徒に見てほしいと思う場所のほか、生徒が自分たちで行きたいと決めた場所も含めたコース設計になっている。実際に長崎を訪れて印象深かったことを、遠藤さんと大神さんに聞いた。遠藤さんは、「長崎に到着して最初に訪れたのが原爆資料館でした。それまでは研修旅行ということで浮ついた気持ちもあったのですが、資料館で当時の写真や資料に触れて、真剣にやらなくてはと気の引き締まる思いがしました。実際に当時の現物を見られたことで大きく意識が変化したと思います」と、資料館で衝撃を受けたことを話す。また、事前に読んでいた遠藤周作の小説『女の一生(明治維新の頃、隠れキリシタンとして流罪となる若者に思いを寄せる少女の物語)』とゆかりのある場所を訪れたことも感慨深かったそうだ。「物語はフィクションですが、そこに登場する教会を実際に訪れて、現実の風景とストーリーが重なりました」と、その時を振り返る。大神さんが印象深かった場所としてあげたのは、日本二十六聖人殉教地だ。「宗教の時間に隠れキリシタンのことを学んだのですが、実際に26人の方が亡くなられた場所を訪れたことに特別な学びがありました」と話す。さらに、原子爆弾落下中心地に建つ記念碑で祈りを捧げたことも良い経験になったという。「大きな記念碑を72回生全員で囲んでお祈りをしました。私たちが訪れた日は雲一つない晴天でしたが、75年前に原爆が落ちた時はどんな天気だったのだろう、当時はここにどんな人たちがいたのだろうと、瞑想しながらその時に思いを馳せました。記念碑を離れてから仲間と話してみると、みんな私と同じような気持ちでお祈りしていたとわかりました。同じものを見て、同じ気持ちを共有できたことは、大切な思い出です」。

日本二十六聖人殉教地は小高い丘の上にある。同年代の少年もここで十字架に架けられたという事実に心を打たれた

HRの時間に折った千羽鶴を平和への願いを込めて奉納した

原爆落下中心地。猛暑の中、原爆落下当時の暑さ・熱さを想像しながら全員で黙祷した

見えないものを見る力が
1人1人の世界を拡げる

現地研修を終えた後、遠藤さんも大神さんも、物事の見方に変化があったようだ。遠藤さんは、「授業でSDG’sに取り組んでいて、私はジェンダー問題をテーマにしています。平和は平等の上にあるものだと思います。研修後はこれまで以上に男女差別や人種差別、宗教差別などを身近な問題として考えるようになりました」と話す。大神さんは、「以前、宗教の授業で中村哲さんのビデオを見たことがあります。その時に、平和は人対人ではなく、人対大自然で考えるべきだいうお話がとても印象に残りました。最近は、中村さんの言葉の意味をもっと深く知りたいと思うようになりました」と、研修前と後の変化を教えてくれた。2人の担任を務めている込山友美先生は、「カトリックの教育では、表面に見えることだけでなく、その奥に隠れているものを探しにいくことを教えています。コロナ禍で我慢することも多かったと思いますが、様々な制約の中でも物事の本質に目を向け、喜びや楽しさを見つける力を持ってさらに育ってほしいと思っています」と話す。同校の生徒たちの“見えないものを見る力”を磨き育てようという思いを、生徒たちはしっかり受け止め、成長している。

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