2021.11.30
リアルな体験から自分の可能性を模索。
生徒の主体性を高める英語探究の活動
順天中学校・高等学校は、1834年に和算の大家・福田理軒によって設立された順天堂塾をはじまりとする。以来、建学の精神「順天求合」(自然の摂理にしたがって真理を探究する)のもと、一人ひとりの人格形成に重点を置きながら、これからのグローバル社会に活躍する人材育成に力を注いできた。同校の進める、学び方と生き方を大切にする教育とはどのようなものなのか。その具体例として、英語探究の授業について話を聞いた。
探究授業を、自分の目標を
見つけるきっかけに
「英知をもって国際社会で活躍できる人間を育成する」。これは順天中学校・高等学校の掲げている教育方針だ。SGH指定校でもある同校の「国際教育」は、「進学教育」「福祉教育」と並んで教育の大きな特色となっている。国際社会で実際に使える英語を念頭とした英語授業において、「学び方」と「生き方」の教育の代表例が高校1、2年生の取り組む英語探究の授業(英語選抜類型クラス)だ。 生徒たちはチームに分かれ、主体的に社会課題の解決に取り組んでいく。授業を担当する英語科の藤井健太先生は、「実社会の中で自分にはどういうことができるのか。それを肌で感じながら学び、将来の目標を見つけるきっかけにしてほしいと」と、探究授業への思いを話す。
子どもたちの英語学習を
オンラインでサポート
英語探究の1チームが取り組んでいるのが、地域の子どもたちの居場所として活動する「寺子屋子ども食堂・王子」のサポートだ。生徒たちは、ここを利用する子どもたちに英語を教える活動を続けている。当初は幼児に英語の絵本の読み聞かせを行なっていたそうだが、コロナ禍の現在は直接触れ合うことが難しい。そこで小学生と中学生を対象に、オンラインを活用した英語授業の配信を始めた。このプロジェクトに参加する新行内侑衣さん(高2)は、「英語の課題を提出してくれない子もいるので、提出率を上げられるように、新しい形を試してみようと話し合っています」と、現在の課題を教えてくれた。そして、加茂晋之介さん(高2)によると、「中学3年生には受験用の課題を出しますが、中学2年生以下の子どもたちには、まず英語に興味を持ってもらえるようにクイズ形式の課題をやってみたい」と、チームで相談しながら課題解決の道は拓かれてきているようだ。直接子どもたちとコミュニケーションが取れない中、手探りで計画を進めていくには苦労も多い。だが、篠田実希さん(高2)は「それでもみんなで解決しながら進める経験は、有益なものだと思っています」と、探究授業のやりがいを話す。
「いろんな人と関わりを持ってみたい。その経験が自分の糧になると思います」と、新行内さんは英語探究への期待を話す。(写真左)
「僕は子どもが好きだし、人に教えることにも興味があります。英語のサポートで子どもたちの力になれたら」と、加茂さん。(写真右)
マンション商店街を盛り上げる
文化祭プロジェクト
また、英語探究の別のチームは、北区にある豊島五丁目団地の活性化プロジェクトに取り組んでいる。総戸数約5千戸というマンモス団地は、まもなく築50年を迎える。昔からの住人の高齢化をはじめ、新たに入居してくる外国人や若い世代の交流の希薄化など、課題も多い。英語探究の授業では、3年前から東洋大学の学生とともに団地の活性化に取り組んできた。昨年は団地住人の交流イベントとして写真展を開催。団地の歴史を写真で辿り、好評を得たという。そして今年は、企画をさらにパワーアップ。プロジェクトを進める武田梨沙さん(高2)は、「昨年の経験を踏まえながら、今年は若い人や外国人の人にも参加してもらえるような文化祭にしようと、いろいろなアイデアを出し合っているところです」と話す。川島小羽音さん(高2)も、「団地コミュニティ形成に役立つ活動にしたいですね。誰にでもわかりやすいテーマを考えたいと思います」と、文化祭への意気込みを話してくれた。
団地活性化のプロジェクトを進める武田さんと川島さん。「これからも団地と学校のつながりはなくさないでほしい」と、プロジェクトの継続を後輩に託す。
みんなのアイデアから
誕生した、渋沢栄一パン
前述の「寺子屋子ども食堂」の活動メンバーである篠田実希さんは、高校1年の時の同級生と一緒にある課外プロジェクトにも挑戦した。それがフジパン株式会社、日本薬科大学との連携によるパンの新商品開発。テーマとなったのは、北区ともゆかりの深い「渋沢栄一」である。プロジェクトはまったくのゼロからスタートした。メンバーとなった生徒たちの作業も、図書館で渋沢栄一を調べることから始まったという。さまざまな文献を読み、渋沢が「近代日本資本主義の父」といわれる人物となった契機は、パリ万博で渡仏し、そこで西洋経済や金融のしくみを学んだことにあるという思いに至った。その出来事とフランス伝統菓子タルトタタンを結びつけ、完成したのが新商品「りんごのケーキ」である。篠田さんは、「順天には、自分たちが主体的に活動できる場がたくさんあります。その機会を生かしていくと、学校生活がさらに楽しくなります」と話す。生徒たちは、さまざまな体験を通して未来を生きる力をつけていく。これこそ同校が大切にする「生き方」と「学び方」の教育によって生み出される成果だろう。
「渋沢栄一パン」プロジェクトのメンバー。左から安藤月乃さん、玉村未来さん、岩﨑浬馬さん、篠田実希さん(全員高2)高校1年生の時の同級生でチームを組み、プロジェクトに挑戦した。
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