rogo

2021.12.30

the-schools
the-schools

探究学習を通して、
50年間社会で活躍するために必要な資質・能力の基盤をつくる

大妻中学高等学校主幹
森 弘達 先生

創立から113年の歴史をもつ大妻中学高等学校。女子教育の伝統校として知られるが、近年は「大妻ビジョン50」をテーマに新しい風を吹き起こしている。今後伸ばしていく力として掲げるのが、「問題解決力・創造力・探究心」。今年度より本格始動した新たな探究的な学びについて、主幹の森弘達先生に伺った。

2021年度大妻STEAM 探究講座登壇者

  • ・「イノベーションの作り方:Body Sharingの場合」玉城 絵美 先生(琉球大学教授)
  • ・「『自分だけの視点』を手に入れるアート思考の授業!」末永 幸歩 先生(東京学芸大学個人研究員、アーティスト)
  • ・「数理科学的に考えて判断できる人・できない人」西村 圭一 先生(東京学芸大学大学院教授)
  • ・「デザイン思考ワークショップ」杉浦 正吾 先生(東京都市大学特任教授)
  • ・「人とロボットの運動科学」山本 江 先生(東京大学大学院准教授)
  • ・「安心してください・・・教えます!探究論文を書くための基本」小林 至道 先生(青山学院大学アカデミックライティングセンター)
  • ・「科学と東大」石浦 章一 先生(東京大学名誉教授)
  • ・「STEAM教育の必要性」瀬戸 裕一郎 先生(株式会社Z会ソリューションズ事業開発室長)

2021年度大妻医療系探究講座登壇者

  • ・「知っておきたい身体と心の仕組み」森田 豊 先生(医師、医療ジャーナリスト、大妻女子大学特任教授)
  • ・「医師としての責務 -臨床・教育・研究の良いバランスとは?」仲間 達也 先生(医師、東京ベイ・浦安市川医療センター副部長)
  • ・「医学科を志す皆さんへ、医学科進学、研究者になるためにはどうしたらいいのか」濱田 千江子 先生(医師、順天堂大学教授)
  • ・「日本の医療で世界を変えるー世界にはばたく女性になるためにー」嘉数 真理子 先生(医師、ジャパンハート)
  • ・「医師としての女性の活躍と可能性」竹宮 たか子 先生(医師)
  • ・「医療系小論文・面接講座」森 弘達(大妻中学高等学校主幹)

各分野のプロフェッショナル
による「STEAM探究講座」

「大妻ビジョン50」とは、人生100年時代を生きるこれからの女性には「人生のうち50年間くらいは、社会で活躍し、貢献する立場にあってほしい」という願いから考案されたものだ。「新しい時代を生き抜くためには、問題解決力、創造力、探究心といった資質・能力が求められ、特にICTリテラシーやAIに関する知識は、文系・理系問わず必須になる」と森先生。そこで今年度から探究学習とSTEAM教育とを掛け合わせた「STEAM探究講座」を開講し、高校2年生全員が受講している。STEAM探究講座の最大の特徴は、各分野の第一線で活躍する研究者やアーティスト、起業家など、学外から講師を招くこと。森先生は、「大学受験を見据えた指導だけでは、モチベーションアップは難しい。大事なのは、本物に触れる経験。先進的かつ刺激的な研究や実践を行っている方々の話を聞き、つながりをもつことで、生徒にスイッチを入れたい」と言う。今年度のSTEAM探究講座には、年間を通して8名の専門家が携わる。アメリカ『TIME』誌が選ぶ「The50 Best Inventions(世界の発明50)」に選出された「PossessedHand」を開発した玉城絵美氏(現・琉球大学工学部知能情報コース教授)をはじめ、数理判断、ロボット工学、アート思考など、STEAMの各分野のプロフェッショナルばかりだ。いずれも森先生らが直接アプローチし、講座の前には入念に打ち合わせを行う。「講師の先生に丸投げではなく、本校の生徒に合った内容になるよう十分に配慮している」と言う。探究講座は基本90分間。60分は講義、30分は質疑応答や講師との交流という構成で、ただ講義を聞くだけでなく、生徒が各分野を探究し続けるプロフェッショナルと直接話をする機会があるのも特徴だ。「どの講座も面白く、生徒も興味深そうに聞いている」と森先生。講座の様子は録画し、全学年の生徒・保護者も視聴できるようYouTubeで限定配信を行っている。

西村圭一先生(東京学芸大学大学院教授)の授業風景

竹宮たか子先生(医師)の授業風景

高2の「課題研究論文」は、
Z会との提携で添削力を強化

高校2年次の夏休みには、全員が4,000字の課題研究論文に取り組む。論文執筆に先立ち、1学期には問いを立て、仮説を立て、検証するという課題研究のメソッドを学び、7月には青山学院大学アカデミックライティングセンターの講師から論文の書き方を学ぶ。そのうえで夏休みをかけて各自がテーマに沿って研究し、その結果を論文にまとめ、9月に提出する。添削を行うのは教員ではなく、研究者やジャーナリストらからなる15名の添削者だ。「280名以上の生徒の論文を教員が添削するのは物理的に厳しく、教員の負担を増やしてしまううえ、細かいところまで見てフィードバックするのは難しい。そこで、添削指導のプロであるZ会と提携して、添削・評価を行うことにした」と森先生は解説する。森先生自身も、20年以上にわたり小論文指導や探究学習の指導・評価にあたってきた人物だ。独自のルーブリック(評価基準軸)をZ会と共同開発し、1.テーマ設定は適切か、2.先行研究を調べているか、3.仮説をもとにリサーチできているか、4.探究の結果がまとめられているか、5.論文としての構成は適切か、の5項目に表現・表記を加えた6つの観点で5段階評価をつけ、各観点について200字程度全体で1200字以上のコメントもつけることとした。論文は11月に生徒に返却され、生徒はコメントを参考に細部を調整し、冬休み明けに完成させる予定だ。さらに、「最終的には論文の概要をスライドにまとめ、そのスライドを使ったプレゼン動画を作成・提出させたい」と森先生は考えている。
「予想以上に生徒は頑張っています。4,000字の課題研究論文の執筆というのは、生徒にとって最初は高いハードルに見えたはずです。やってみたらできたという経験は大きいですし、論文というかたちにまとめた経験は大学での学びにもつながります。添削自体はZ会にお願いしましたが、学年担当の先生方も生徒の個別相談に乗ったり励ましたりして、一緒になって進めることができたのもよかった点です」

山本江先生(東京大学大学院准教授)の授業風景

玉城絵美先生(琉球大学教授)の授業風景

次のキーワードは“非認知能力”。
自ら学びに向かう生徒を育てたい

高校2年生のSTEAM探究講座や課題研究論文の下地となるのが、中学3年次と高校1年次の探究的な学びだ。中学3年次には道徳と総合的な学習の時間を融合させ、自分自身や進路、キャリア、職業、社会、未来などについて考え、理解を深めていく。思考力・判断力・表現力や学びに向かう力を育むことを重視し、昨年度からは『FUTURE』(SRJ)という教材を使用している。テーマについて課題文を読み、個人ワークやグループワークを通して理解を深め、最後は100~140字程度の文章にまとめるという内容だ。現在、『FUTURE』は私立中高の多くの学校で採用されており(森先生は著者の一人でもある)、大妻では特別編集されたものを使用している。また、高校1年次には、イノベーションをテーマに探究学習に取り組む。今年度は「プロダクトイノベーション」をテーマにリサーチを行い、800字の小論文を書き、添削後、最終的には1000字の小論文にまとめる。これが2年次の課題研究論文へとつながっていくのだ。さらに、今年度から新たに「医療系探究講座」を開講。森先生が医学部合格者800名以上輩出した経験を活かしてカリキュラムを開発。高校1・2年生の医療系志願者を対象に年間10回開講しており、うち5回は医師や医学研究者を講師に迎えている。残り5回は、森先生が医療系小論文講座を担当している。こちらの講座も中学生を対象にYouTubeで限定配信を行っている。そして森先生は、すでに次のステップも描いている。「今、私が注目しているのが、学力をつけるうえで大前提となる“非認知能力”のアセスメント(評価・分析)です。すでにアメリカでは、非認知能力の育成プログラムを義務化している州もあります。まだまだ研究中ですが、探究学習を通していかに非認知能力を伸ばすかといった視点で、大妻の教育をより良いものにしていきたいと考えています。また、生徒の意欲や自律学習についての研究に携わることも決まっており、さらに面白いことになりそうだとワクワクしています」新しい風が吹くなか、さらに進化を続ける大妻中学校高等学校。今後の展開に期待が集まる。

濱田千江子先生(医師、順天堂大学教授)の授業風景

森田豊先生(医師、大妻女子大学特任教授)の授業風景

記事一覧へ

MENU