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2021.11.30

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さらなる高みを目指し、いま再び、”新たな船出”へ!

1891年(明治24年)に設立された海軍予備校に原点をもつ海城中学高等学校。戦後は新制中学・高校として新たな一歩を踏み出し、リベラルでフェアな精神を持つ「新しい紳士」の育成を教育目標に掲げ、さまざまな挑戦を続けてきた。社会が大きな転換期を迎えている今、海城でも新たな時代が幕を開けようとしている。

戦後、リベラリズムに基づく
男子教育校として再スタート

海城中学高等学校は、130年の歴史を誇る進学校だ。「国家・社会に有為な人材の育成」という建学の精神に基づき、時代の変化に応じて改革を推進してきた。その歴史において、「大きく二つの節目があった」と語るのは、校長特別補佐の中田大成先生。最初の節目は、戦後の再スタートだった。「海軍を背景にした学校だったためGHQにより閉校命令が出されたのですが、それをなんとか凌いで新たな学校として再スタートを切りました。その象徴が、現在の校章です。当時、本校で教鞭を執っていた画家の利根山光人先生がデザインされたもので、KAIJOのKとSCHOOLのSをモチーフに、海に繰り出す船を描いています。帆(船)は生徒たち、柔らかな海風は教職員であり、未知なる社会・世界(=海)へと巣立つ生徒たちを教職員が彼らに寄り添いながら支援するという意味が込められています。また、これは学校としての新たな船出も示唆しており、学校は戦前の教育の反省からリベラリズム(自由主義)に基づく教育へと舵を切りました」こうして再出発した海城中学高等学校は、リベラルでフェアな進学校としてその名を広く知られるようになった。一方、戦後50年近く経った1990年代になると、次第にその精神が薄れていったと、中田先生は振り返る。「当時は、大学受験で実績を出すための学力偏重、偏差値主義の教育・指導に傾いてきていました。毎年30~40人は東大に合格していたものの、東大の某サークルの調査で『(海城出身者は)入学後の留年率が高い』と揶揄されてしまったのです。ちょうど創立100周年を迎えるタイミングでもあったので、これを発端に学校改革に着手しました。これが、二つ目の節目です」

学力偏重を脱し、人間力を
兼ね備えた人物の育成に転換

1992年を改革元年と位置づけ、グローバル化や価値観の多様化が進んだ現代社会における「国家・社会に有為な人材」に不可欠な、「新しい学力」と「新しい人間力」の育成を改革の柱とした。新しい学力の軸を課題設定・解決能力、新しい人間力の軸を対話的なコミュニケーション能力とコラボレーション能力に置き、さまざまな教育活動を展開。改革初期から着手した探究型の社会科総合学習、生徒参加型の理科学習、チームで課題に挑む体験学習プログラム「プロジェクトアドベンチャー」、演劇の手法を用いて行う「ドラマエデュケーション」などに加え、近年はカリキュラムの枠を超えて生徒が主体的に学ぶ「KSプロジェクト」、グローバル教育、ICTを活用した教育、さらにJAXAとの共創教育事業などを展開してきた。生徒は課題や目標に向かって主体的・体験的に学ぶなかで、学力と人間力とをバランスよく育んでいく。生徒の新しい学びを支えるのが、インフラだ。校舎や施設・設備の拡充に加え、ICTインフラの整備にもいち早く着手した。2016年にはICT教育部(校務分掌)を設置。全クラスルームに電子黒板機能付きプロジェクターと白板を設置し、インターネット環境を整備。さらに、全教員・全生徒にデジタルデバイスを配布した。現在では授業などでのICT活用がかなり進んでおり、「科目や教員により異なるが、ほぼすべての教員が使いこなし、プロジェクターでの画面共有や提出物の配布・回収、生徒が作成した答案や収集したデータの共有などを行っている」と中田先生。デジタルデバイスを使った学びや指導は日常的な光景となっている。

新校舎エントランス

1階講義室

情報教育を拡充し、
プログラミング的思考力を身につける

1990年代から続く改革により、受験指導に偏った教育から脱却した海城中学高等学校。近年は「俳句甲子園」で優秀な成績を収めるなど、生徒は学業以外の面でも多彩な能力を発揮している。そして、さらなる高みを目指し、同校では今年度より新たな挑戦が始まっている。柱となるのが、情報教育と理科・STEAM教育の拡充だ。これまで改革を担ってきた中田先生は、「世代交代のとき。新しい学習指導要領が始動するタイミングでもあるので、若手にバトンを渡したい。これからの海城を、新しい世代につくっていってほしい」と期待を寄せる。その新しい世代を担うのが、ICT教育室副室長の平田敬史(ルビ:たかし)先生と、理科副主任の山田直樹先生。いずれも理科の教員で、平田先生は化学、山田先生は地学が専門だ。まずは一つ目の柱である情報教育の拡充について、平田先生に伺った。「中学1・2年次の技術の授業で、情報分野の学習を強化します。年間17~18時間のカリキュラム(1年次「コンピュータ入門」、2年次「コンピュータ基礎」)になっており、独自開発した動画教材を用意しているため、興味や能力のある生徒はどんどん独学ができます。また、授業には教員に加えてTA2名を配置し、生徒の学びをサポートします。これまではコンピュータ室のキャパシティの問題で、情報教育に十分な時間を割くことができませんでしたが、今の中学生にはMacBook Airを一人一台配布しており、かつ教室でインターネットに接続できるので、教室にいながらハイスペックな機器を使った授業が可能になったのです」すでに科目を問わず校内ではICTの活用が進んでおり、生徒はデジタル機器を使い慣れている。なかには動画編集やプログラミングなどに長け、教員を凌駕するような生徒も少なくない。そのため情報の授業では、「基礎的なリテラシーを身につけることに留まらず、どうすればより効率よく合理的に物事ができるかを考え試行錯誤するというプログラミング的思考力や発想力を身につけてほしい」と中田先生も期待する。なお、来年度には情報分野に強い若手の技術教員の着任が決まっており、充実した情報教育は海城の新たな顔となりそうだ。

1階地学実験室入り口

1階物理実験室入り口

理科・STEAM 教育の拠点、
「新理科館」が始動!

二つ目の柱、理科・STEAM教育の新たな拠点となるのが、今夏に竣工した「新理科館」だ。企画・立案から3年あまりの年月をかけた渾身の施設が、ついに完成した。新理科館を建てた背景について、山田先生はこう語る。「海城では体験を重視した理科教育を行なってきましたが、どうしても設備的に限界がありました。変化が激しく正解のないこれからの社会を生きるうえで必要なのは、教えられて詰め込んだ知識ではなく、状況に応じて自分の頭で考える力です。そこで、知識獲得型の教育から脱却し、実験や観察を通して自分の手でデータを集め、分析し、考察する思考力養成型の教育へと切り替えるべく、新理科館をつくり、理科・STEAM教育にさらに注力することになったのです」新理科館の建設にあたっては、どんな校舎にしたいか、どんな設備が必要かという理科教員への事前ヒアリングが綿密に行われ、現場の意向を最大限に反映した。従来は5室だった実験室は9室に増え、生物・化学・物理・地学の各科に特化した教室がある。さらに、理科助手も各科に一人ずつ配置するなど、ハード・ソフトの両面で拡充された。地学の教員である山田先生は、興奮気味にこう話す。「地学でいうと、博物館にあるような流水地形実験装置を実験室に設置しました。新設した岩石処理室には、岩石カッター、研磨のためのグラインダーなどを置くことで、市販の標本だけに頼らない教材づくりが可能になりました。生徒が自分の目で見て手を動かして体験的に学ぶための設備や備品が充実しました。地学は他の3科目に比べてマイナーなので、一般的に隅に追いやられがちなのですが、海城では思う存分学ぶことができます。教室の前には展示棚を作ってもらったので、鉱物や化石など、生徒の興味関心をひくものを並べたいと思っています。さらに、新理科館自体が理科の教材になっているんです。太陽光や風力発電機を設置しており、エネルギーの発電・消費状況をモニターで表示したり、建設時に地下を掘った際の関東ローム層を展示したり、壁面には調湿効果のある岩石を使用したり。屋上は緑化していて、自然観察や気象観測、天体観測などもしやすくなりました。新理科館にいるだけで知的好奇心が刺激される、そんな素晴らしい場所になっています」化学の教員である平田先生も、こう付け加える。「今の子どもたちは、日常生活のなかでの理科体験が少ないと感じます。体験して感覚として身体で学ぶことで、理解も深まり記憶にも定着しやすくなるので、いわゆる学力向上にもつながると考えています。化学実験室でもかなり高度な実験ができるような設備が整ったので、私自身とても楽しみにしています」

2階生物実験室

2階生物実験室入り口

教員自身が学び続け、試行
錯誤し、進化できる学校に

海城中学高等学校では、受験指導に偏った教育から脱却したにもかかわらず、高い大学合格実績を出し続けている。特に、学力偏重型の学びでは合格が難しい東京大学の学校推薦型選抜や京都大学の特色入試にも、毎年、多数の合格者を輩出していることは注目に値する。山田先生が顧問を務める地学部からも、毎年のように東大の推薦入試の合格者が出ているという。中田先生は、山田先生、平田先生にこうエールを贈る。「生徒の力を引き出してくれる若い先生方がいて、大変心強く思っています。ですが、素晴らしい力を身につけても、それを悪用するのでは意味がありません。公共のために生かす、社会に貢献する…という建学の精神に謳われているマインドをいかに生徒たちに伝え、植え付けていくか。いかに教員自身が実践できるか。自分たちの世代が十分にできなかった課題として、次の世代の先生方にはぜひ、この課題に取り組んでいただきたいと思っています。大いに期待しています」最後に、平田先生、山田先生に、今後に向けての抱負を語っていただいた。「海城には、学外のコンテストなどに積極的に出場して成果を収めたり、海外の大学に進学したりと、高い能力や志を持つ生徒が多数います。そうした生徒の活躍は、他の生徒にとって大きな刺激になります。互いが刺激を与え合えるような環境、切磋琢磨してみんなで高みを目指していけるような環境をいろんなシーンでつくっていきたいと考えています」(平田先生)「今は、AIの発達に象徴されるように社会がものすごいスピードで変化しており、何が起こるかわかりません。そうした時代を生きる子どもたちに、僕らは何をしてやれるか。少なくとも、調べればすぐにわかる知識を教えることではありません。柔軟な思考力、タフな精神、トライアンドエラーを繰り返せる根気強さ、学び続ける姿勢…他にもいろんな資質・能力が必要になると思いますが、海城で学ぶ6年間がその手助けになるよう、私たち教員自身が学び続け、試行錯誤し、進化していかねばならない。そう考えています」(山田先生)

2階共同実験室

3階化学実験室

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